京都地方裁判所 昭和55年(ワ)332号 判決 1981年4月27日
原告
布施君江
被告
下林茂久
主文
一 被告らは原告に対し、連帯して金三七〇万六七〇一円および内金一七六万〇一〇八円に対する昭和五五年二月一九日から、内金三五万円に対する本判決言渡の日の翌日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その一を被告ら、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の申立
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し、連帯して金一八〇〇万円およびこれに対する昭和五三年三月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
(一) 訴外亡布施久治は左記交通事故(以下本件事故という)により死亡し、原告は同人の母で唯一の相続人である。
記
1 日時 昭和五三年三月一七日午前三時四三分頃
2 場所 京都市伏見区竹田三ツ杭町名神高速道路下り線四八六・六キロポスト先路上
3 態様 路肩に停車中の布施久治運転の普通乗用自動車(以下被害車という)に、被告下林茂久運転の大型トラツク(以下加害車という)が追突し、被害車は炎上して布施久治が焼死したもの。
(二) 被告らの責任
本件事故は被告下林茂久が制限速度を超えて進行し、かつ前方の注視を充分にしなかつたため発生したものであり、被告下林兼次は愛宕運送店の名称でトラツク運送業を営んでいるもので、加害車を運行の用に供しているものである。
よつて被告下林茂久は民法七〇九条により、被告下林兼次は自動車損害賠償保障法三条により、布施久治の損害を賠償すべき義務がある。
(三) 損害
1 逸失利益 二二〇〇万円
昭和五三年度賃金センサス、ホフマン係数による。
2 慰藉料 一〇〇〇万円
3 諸経費 一〇〇万円
葬儀関連費 七七万一三五〇円他
4 遅延損害金 三一六万二五〇〇円
後記の弁済受領の日まで二三カ月間の遅延損害金
3,300万円×0.05×23/12=316万2500円
5 弁護士費用 二〇〇万円
6 弁済受領額 一四四〇万一三〇〇円
昭和五五年二月一八日に支払を受けた。
7 相続
原告は布施久治の死亡によりその母として同人の損害賠償請求権を相続により取得した。
(四) 以上の次第で原告は被告らに対し合計二三七六万一二〇〇円の損害賠償請求権を有するところ、内一八〇〇万円とこれに対する本件事故の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因の認否および被告らの主張
(一) 認否
請求原因(一)の事実のうち被害車が路肩に停車していたことは否認するがその余の事実は認める。
同(二)の事実は認める。
同(三)の事実は知らない。
同(四)は争う。
(二) 主張
1 過失相殺
被告下林茂久は直線に近い下りの本件事故現場附近を時速一〇〇キロメートル位の連度で進行中、事故現場の手前約一〇五メートルの地点で、ラジオをカーステレオに切り換えるため顔は前方に向けたまま体を少し左に寄せ運転席左下のカセツトボツクスからカセツトテープをとり出してステレオにセツトした後前方に注意を集中したと同時に前方約一七メートルの地点に駐車中の被害車を発見し、とつさにハンドルを右に切り急停車の処置をとつたが間に合わず自車左前部を被害車に衝突させ、そのまま同車を約七七メートル押して停車したもので、同所で降車し被害車のドアを開けようとしたが開かず、また自車を引き離そうとして自車を後退させたが動かなかつたため約六〇〇メートル離れた地点の非常電話から連絡して同所へ戻つたところ被害車も加害車も炎上しており、結局布施久治と同乗者一名が焼死したものである。
布施久治は深夜の真暗な高速道路において被害車を無燈火のまま走行車線上にはみ出した状態で駐車させていたものである。
右のような事実によると布施久治の過失は極めて大であり、その相殺率は八〇パーセントとするのが相当である。
2 損益相殺
原告は昭和五五年二月一八日自動車損害賠償責任保険金一五〇〇万円の支払を受けた。
三 被告らの主張に対する原告の認否
1 過失相殺の主張のうち被害車が無燈火で停車していたことは認めるが、その余は全て争う。
2 損益相殺の主張のうち一四九〇万円の支払を受けたことは認める。なおその余の一〇万円については支払を受けたことは認めるが、それは遺体搬送費に充てられたものである。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生
(一) 請求原因(一)のうち被害車の停車位置を除くその余の事実については当事者間に争いがない。
(二) 成立に争いのない乙第一ないし第六六号証によれば、本件事故現場はほぼ直線に近いゆるい下り坂であり、また付近一帯には照明燈もなく、かつ左右路端に高さ約二・五メートルの防護壁が設置されているため外からの光も入らない真暗な場所であること、被害車は無燈火のまま走行車線に車体の半分位をはみ出した状態で停車し、亡布施久治外一名は被害車に乗車したままで、停車中であること表示する格別の措置を何もしていなかつたこと、被告下林茂久は時速一〇〇キロメートル位で進行中本件事故現場の手前約一二二・七メートルの地点でラジオをカーステレオに切り換えるため前方注視を怠たりその操作をしてから前方を見たところ前方約一七・二メートルの地点に被害車を確認してとつさにハンドルを右に切ると同時に急停車の措置をとつたけれども間に合わず自車左前部が被害車後部に衝突し、そのまま約七六・九メートル被害車を押したまま進行して停車したが、被害車のドアを開けることも、自車を引き離すこともできなかつたため、約六〇〇メートル離れた地点にある非常電話から連絡して同所へ戻つたところ被害車も加害車も炎上していたものであること、なお被害車は前記のような状態で同所に少くとも一五分以上の間停車していたもので、その間何台かの車両が衝突しそうになりながらも危うく回避して行き、これら車両の運転者らからの通報により京都府警高速道路交通警察隊のパトカーが急行中本件事故が発生したものであること、の各事実を認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。
二 被告らの責任
前示の事実によれば被告下林茂久は前方不注視の過失により本件事故を惹起したものであり、また被告下林兼次が愛宕運送店の名称でトラツク運送業を営み、加害車を運行の用に供していたことは当事者間に争いがないから、被告下林茂久は民法七〇九条により、被告下林兼次は自動車損害賠償保障法三条により、布施久治死亡による損害を賠償すべき義務がある。
三 損害
(一) 逸失利益 一六九九万五四九八円
成立に争いのない乙第四〇、六〇、六一号証および証人布施正博の証言(第一回)によれば、布施久治は昭和三〇年七月一七日生の健康な男子で本件事故当時大阪市内の大学四年に在学中であつたが、その以前から住所地近くのゲームセンター等でアルバイトをするなどしており、また単位不足等から同年度の卒業が不可能となり、附近の知人経営のパチンコ店で働く予定であつたこと、が認められる。
右事実によれば同人の確定的な収入額は算定し得ないけれども、同人も健康な一男子として少くとも高校卒業の学歴を有する同年代男子の平均収入額程度の収入を得ることは可能であつたものというべきであるから、昭和五三年賃金センサスに従い、稼働可能期間を四五年間、生活費控除を収入額の二分の一として、ライプニツツ式計算方法(本件の場合その稼働期間が四五年の長い期間に及ぶものであるからホフマン式計算方法は周知のとおり理論的に妥当でない)により年五分の割合による中間利息を控除してその間の逸失利益を算出すると左のとおりとなる。
(12万7,600円×12カ月+38万1,200)×1/2×17,774=1,699万5,498円
(二) 慰藉料 一〇〇〇万円
諸般の事由を総合すれば慰藉料としては右金額が相当である。
(三) 葬儀費 七七万一三五〇円
証人布施正博の証言(第一、二回)およびこれにより成立の認められる甲第四号証の一ないし一九によれば原告は布施久治の母として葬儀を行い、右金額の出費をしたことが認められ、右は原告の損害として相当な損害と認められる。
(四) 弁護士費用 三五万円
本訴認容額その他の事情を考慮すると弁護士費用としては右金額が相当である。
(五) 遅延損害金 一五九万六五九三円
以上の損害につき後記のとおり過失相殺すると被告らの原告に対する損害賠償債務額は一七〇一万〇一〇八円となるところ、そのうち一四九〇万円については昭和五五年二月一八日自動車損害賠償責任保険金の支払がなされたから、未だ履行期未到来の弁護士費用を除くその余の損害金額に対する右同日までの間の民法所定年五分の割合による遅延損害金は左のとおりとなる。
1,666万0,108円×0.05×23/12=159万6,593円
(六) 相続
証人布施正博の証言(第一、二回)および弁論の全趣旨によれば、原告は亡布施久治の母で唯一の相続人であること、同人の死亡によりその損害賠償請求権を相続により取得したことを認めることができる。
四 過失相殺
前示の本件事故発生の状況によると、被害車の運転者である亡布施久治においても、深夜の真暗な高速道路において無燈火無標示でかつ走行車線にはみ出した状態で被害車を漫然と停車させていた点で極めて重大な過失があつたことを否定し得ず、その過失割合は四割を下らないものというべきである。
よつて前示損害のうち弁護士費用と遅延損害金を除くその余の分について右の割合の過失相殺をする。
五 原告の受領額
原告が本件事故に基づく前示の損害に対し、昭和五五年二月一八日自動車損害賠償責任保険金一四九〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。
なお右保険から右の外一〇万円の支払がなされたことについても争いがないが、それが前示の損害に対する支払としてなされたものであることの証明はない(弁論の全趣旨によればそれは遺体搬送の費用として支払われたことが認められる)。
よつて一四九〇万円についてはこれを前示損害額から控除する。
六 結論
以上の次第で原告の被告に対する本訴請求は三七〇万六七〇一円と内金一七六万〇一〇八円に対する昭和五五年二月一九日から、内金三五万円に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 村田長生)